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【レポート】水産庁と釣り業界が語るクロマグロ遊漁の現状と今後

2022年12月8日 一般社団法人日本アングラーズ協会



はじめに


一般社団法人日本アングラーズ協会(以下JAA)は2022年11月15日にくろまぐろ遊魚規制に関する官民意見交換会を一般公開にて実施いたしました。


本記事では意見交換会内にて開催された水産庁や釣り業界関係者によるトークセッションの模様を届けします。



釣りを所管する水産庁、プロアングラーら第一線のメンバーが集う


JAA運営統括 桜井 駿(以下JAA桜井):くろまぐろ遊魚の現状と今後についてディスカッションをしていきます。はじめに簡単に自己紹介をお願いします。



JAA幹事 鈴木 斉(以下JAA鈴木):プロアングラーとして釣りの道具開発やメディアを通しての釣りの普及活動をしています。皆様にも少しでも多くクロマグロ釣りを楽しんで頂けるよう何か協力していきたいと思っています。



JAA幹事 佐藤 偉知郎(以下JAA佐藤):釣り具メーカーSOULS代表です。青森に住んでいることもあり、クロマグロ遊漁船の船長さんや宿の方の知り合いも多く、何か協力できることがないかとの思いで参加させていただいています。



JAA代表理事 村岡 昌憲(以下JAA村岡):釣り具メーカーBlueBlueの代表をしており、SNSのfimoを運営する会社の代表もしております。


クロマグロ以外の魚種で著名なアングラーとして活動している立場としては、水産資源管理の面でクロマグロの規制で良い例を作っていくことが、今後他の魚種に規制が広がっていった際に効いてくると考えています。



JAA代表理事 徳永 兼三(以下JAA徳永):バスメイトというプロショップの代表をやっています。また、バスプロ団体の立ち上げから関わり、釣りの業界でプロとしての生業が成り立つよう活動しています。


この業界にいると、クロマグロに限らずどの魚種も減少していると感じており、しっかりした資源管理のもとでゲームフィッシングが永続的に出来るようにしていきたいと思っています。



公益財団法人日本釣振興会常任理事 柏瀬 氏(以下日釣振柏瀬氏):群馬県で釣り具屋をやっています。魚釣りの10年、20年後はどのようになっているのか、自由に釣りが出来る世界が残っているのか、冷静に考えてみると釣りをやっていることは社会悪になっているのではないかと思うようになり現在活動しています。



水産庁資源管理部管理調整課沿岸・遊魚室課長補佐 権藤 純一氏(以下水産庁権藤氏):沿岸・遊漁室という部署で遊漁の担当をしています。水産庁では私含め2人(当日時点)で全国の遊漁を見ております。

去年の4月に配属されましたが、その6月に始まる遊漁規制の準備が出来ておらず、規制を始めた際もヒアリングの結果を踏まえつつ、遊漁ではそこまでの採捕量はないと考えておりましたが、結果半月で10トンを超えてしまい全面禁止となってしましました。

そこで翌年に向け、時期の上限を設ける検討をしましたが、結果として今年は8月に釣りができない状態になるなど課題も多くありました。


このような機会に色々なご意見を頂戴していきたいと思っております。



JAA桜井:権藤さんは水産庁でどのようなお仕事をされてきたのですか。


水産庁権藤氏:はじめは漁業・養殖業生産統計などの水産統計を作成する統計情報部におりました。現在の部署の前は、漁港・漁場整備部で浜の活力再生・成長促進交付金などを担当しておりました。


また、マグロとの関わりとしては清水でマグロ資源検査官として冷凍マグロを取り扱っていたことはあります。



JAA桜井:沿岸・遊漁室は釣りに関わる何を担当している部署でしょうか。



水産庁権藤氏:釣りに関する全般の業務を担当しています。例えば「遊漁船業の適正化に関する法律」に関する遊漁船業者に関する仕事や、今回のような釣り業界の皆様との連携なども含まれます。


JAA桜井:クロマグロに限らず遊漁船に関することを担当されている、かつクロマグロの規制も担当されているということですね。




2022年のクロマグロ遊漁を振り返る



JAA桜井:それではここからは、くろまぐろ遊漁規制の現状についてディスカッションしていきたいと思います。

まず振り返りということで、今シーズンにクロマグロがどこで釣れていたか、どんなサイズが釣れたか、などをお聞かせ頂けますか。



JAA鈴木:九州、島根県などの能登半島より西側の地域で例年にないぐらいの大きなクロマグロが釣れていました。それは誰も予想していないぐらいの数、大きさでありました。


その結果6月の採捕の枠がすぐに埋まってしまったと考えています。私も丹後半島沖や能登半島の湾の中で釣りをしましたが、港を出て30分~40分くらいのエリアに100kg以上のクロマグロが多数いました。



JAA佐藤:青森では今年特別釣れたとか、今年は大きいなどとはあまり感じていません。今まで居なかったエリアに今シーズンは居たというイメージです。富山、新潟、京都、兵庫などに集中していた感じがします。温暖化や海流の変化などの影響もあると思います。




月別数量など新たな遊漁規制がスタート


JAA桜井:クロマグロの遊漁に関する規制が本格化して今年2年目です。昨年も混乱しましたが、今年は月別制も導入され実際はいかがでしたか。



JAA佐藤:月別配分のバランスが悪かったのではないかと思います。青森には釣り人が多く訪れるため旅館など関連業者も多く、営業が規制に影響されてしまうため、採捕禁止で釣りができなくならないように配分のバランスについては再検討してもらえるとありがたいと考えています。



JAA桜井:佐藤さんが現場で感じる感覚として、現場の遊漁船船長さんや釣り人のルールへの理解度や浸透状況はいかがですか。



JAA佐藤:浸透はしていますが、現場では最低限のルールなので守らなければならないという方が悪者になる部分もあります。


良かれと思い発言をしていますが、陰では文句を言われているのだろうなとは思います。キャッチアンドリリースに関してもっと理解があってもよいのではと感じます。



JAA鈴木:ルールは理解、浸透が進んでいると思います。青森では昨年8月20日で急に釣りができなくなってしまったこともあり、今年はなるべくキャッチアンドリリース、1船で1匹など対策をして枠を増やさないように対策をしていました。


一方、九州などの西の方では、まだキャッチアンドリリースに慣れていないことや一過性のものかもしれないという考えから、キャッチアンドリリースという行為まで至っていないとのことでありました。


今後は枠(採捕上限量)に対しての意識をもち、各地域でキャッチアンドリリースを協力して行けば、通年営業も出来ていくのではないかと考えています。



JAA桜井:従来から漁業者と釣り人、行政と釣り人との間で分断がありました。今年新たに釣り人同士の分断が加わった印象です。




資源量回復に伴い各地でマグロ釣りが楽しめる一方で見えてきた課題



JAA桜井:ある程度資源量が回復し、九州でも継続的に遊漁が可能になった場合、現在あまり交流の無い、青森の遊漁関係者が九州の遊漁関係者にキャッチアンドリリースの方法や、クロマグロの取り込み方法などの船長スキルを共有していくということは考えられますか。



JAA鈴木:毎年、2年や3年マグロが釣れるようになり、お客さんも来るようになれば、交流が必要になってくるかもしれません。



JAA桜井:毎年毎年釣れる海域が変わってしまうと苦しいですね。地域間でいざこざが起き続けることを想定すると、ルール整備どころではないですね。



JAA徳永:十数年前にマグロを釣りに行っていた壱岐(九州)など、昔釣れていたところも復活の兆しがある為、そのあたりのエリアへの啓蒙も必要ではないかと感じています。今年起きたことは来年日本各地で起こるのではと考えています。



JAA桜井:釣り人の意識というのは刻々と変化しているものでしょうか。



JAA村岡:釣り人に対する世間の目もあり、釣り人のマナーは徐々に良くなってきていると感じます。立ち入り禁止の釣り場では、昔は釣り人のほぼ全員が立ち入っていたが、現在はだいぶ少なくなっています。




遊漁についても漁業と同様の資源管理へシフトしていく



JAA村岡:権藤さんにマクロの話で3つほどお伺いしたいのですが、クロマグロ資源管理全体で見たときに、国際条約で制限される今年の枠の管理は無事に達成できそうでしょうか。



水産庁権藤氏:現在その情報は持ち合わせておりませんが、守れるとは思っております。



JAA桜井:2つ目として、日本近海のクロマグロの資源量は増加しているのか減少しているのかについていかがでしょうか。



水産庁権藤氏:低位の上昇という形になります。基準年に比べればまだまだ少ないですが、上昇傾向にあるという理解です。



JAA桜井:最後に現在は国の留保枠から40トンを遊漁に仮割り当てしている状態ですが、今後遊漁としての枠は出来るのでしょうか。



水産庁権藤氏:今年3月に閣議決定された水産基本計画の中には遊漁について試行的な取組みを進めつつ、将来的にはTAC管理に移行する方向の記載はありますので、その方向に進むと考えておりますが、いつ頃かはまだ分かりません。具体的に漁業者の中でも資源管理の枠組みの推進が一番進んでいるのはクロマグロです。



JAA桜井:釣り人にとっては時間軸が重要だと考えています。漁業では先行してTACの取組みが進んでいると理解しています。試行期間を経て現在に至っていると思っておりますが、試行に至るまではどのくらいの期間がかかったのでしょうか。



水産庁権藤氏:2015年に試行的な取組みが開始され、2018年にTAC制に移行しています。



JAA桜井:試行的な取組みの部分の内容は、現在の遊漁に対する規制運用のような状況だったのでしょうか。



水産庁権藤氏:詳しくはわかりませんが、枠の超過分を翌年分から減らすなど厳しくやっていたと理解しています。


漁業者は組織化しているが新しい制度に移行していくのはなかなか難しい面もありました。遊漁では組織化が進んでいない分さらに難しいのではと考えています。



JAA桜井:確認ですが、現在の「40トン」は「遊漁枠」ではないということですよね。



水産庁権藤氏:そうです。枠ではなく国の留保枠を充てているという形です。



日釣振柏瀬氏:近年は遊漁によるクロマグロ釣果が増えています。ここ数年の釣果が基準になってしまうと40トンの枠(採捕上限量)では到底足りなくなってしまいます。





来年度はより細かな月別配分やキャッチ&リリースの推奨を



JAA桜井:水産庁として今シーズンの規制を運用してみての課題や釣り業界への期待はありますか。



水産庁権藤氏:7月8月を一括りにして10トンとした部分は課題だと感じています。


この場では結論を出せませんが、6月、7月、8月にはそれぞれ採捕量を設定すべきであると個人的には考えています。


年間を通してという意味では未知数の部分、わからないことがあります。九州の方では1月~3月に釣れるとの話もあり、現段階では1月~3月は遊漁可能と考えているが引き続き注意深く推移をみていきたいと思います。


また来年は4月からの規制となりますが、今シーズンは4月5月が採捕禁止だったため、データがありません。4月、5月の状況はいかがでしょうか。



JAA鈴木:4月は沖縄で餌釣りのピークとなり、サイズも250kgを超えたりと大きいです。今回の遊漁規制についてルアー釣りのみが対象で、餌釣りは漁業と考え対象外と思い込んでいる船もあったりします。


餌釣りも遊漁だという認識があまりなかったことや、4月~6月は沖縄本島や宮古島でハイシーズンになる為留意が必要です。



JAA桜井:今年の6月のように北陸で多く釣れて採捕量が多くなってしまった状況が来年は4月に沖縄で起きる可能性もあるということですね。



水産庁権藤氏:今年も6月の中旬までは多くは無かったです。その後急激に増えて行きました。



JAA桜井:水産庁さんは積極的に現場の情報を吸い上げて月別制の導入などを実施していただいているとの認識ですが、このように本日の意見や情報なども積極的に取って行きたいとお考えですか。



水産庁権藤氏:その通りです。規制等を検討する上で重要な情報だと思っています。



JAA桜井:本日のような情報交換がこれまでなかったと思います。水産庁さんからいきなり規制が示され、釣り業界側も困り、同時に色々な実態も現れ水産庁さん側も困るというのが一昨年や去年であったと思いますが、ここ最近は、次に生かせる仕組みが回り始めたと感じます。


ここで、来年度この施策は実施したほうがよいと考えているものはありますか。



JAA徳永:1日1本のリミットを1シーズン1本にしてもよいのではないかと思います。



JAA鈴木:仮に一人1シーズン1本だとしても、100kg程度のものを何百人も釣ったらすぐ何百トンになってしまいます。


JAA桜井:1日1本よりは総量を抑制できるのは確かですね。一人1シーズン1本とか1船1シーズン何本などの考え方はIQ管理的な考え方になっていきますか。



水産庁権藤氏:似ていると言えば似た管理にはなります。その管理手法の意見はお電話でも青森の遊漁船の方から頂戴しました。




JAA佐藤:すべての様々なトラブルがなくなるとは思いませんが、大きく減らす方法がキャッチアンドリリースだと考えています。大半の釣り人は釣れたという事実があればキャッチアンドリリースでもよいと考えている人が増えていると思います。



JAA桜井:キャッチアンドリリースを認められない一番の理由は何でしょうか。



水産庁権藤氏 漁業関係法令における「採捕」という考え方に基づくと現時点では認めることができないということになります。


JAA佐藤:渓流でいうキャッチアンドリリースはリリースの前に水から上げることもありますが、クロマグロの場合は水から上げることはない形です。実質キャッチはしていないとの解釈ではダメでしょうか。


JAA桜井「採捕」とは漁業関係法令によると事実上の支配下に移す行為を指すようで、マグロ用のルアーを付けた釣り竿をマグロのナブラに向けて投げようとした、狙おうとした時点で「採捕」に当たると理解しています。



JAA村岡:「採捕」という言葉を使用すると難しくなるので、マグロを水揚げする行為を規制するという考え方はできないでしょうか。殺すという行為を禁止し、殺さないように狙って釣る行為は規制しないという考え方も出来るのではないでしょうか。



JAA鈴木:マグロ釣りをやらない人たちからすると、狙わなければそもそも資源が減らないのではないかという意見をもっているようです。逃がせばよいという意見と、釣りをやらなければよいという意見で分かれてしまっています。



日釣振柏瀬氏:そもそも漁業には捕ってから逃がすという概念がないんです。そこが難しいところだと思います。


広域漁業調整委員会指示としては釣り人に対して採捕禁止という言葉を使うしかありません。キャッチアンドリリースという概念を持ち込んでいくのはハードルが高いと考えています。


内水面ではキャッチアンドリリースを前提とした資源管理の考え方があり、その考え方をどのように海水面に適用していくかは大きな課題です。時間がかかるかも知れませんが、前に進めて行くというのは大事だと思っています。



JAA桜井:水産庁さんから釣り業界へ向けてメッセージがあればお願いします。


水産庁権藤氏:クロマグロから資源管理を始めている形になっていますが、今後ともご協力をお願いいたします。


JAA徳永:このような交流会を行うことによってさまざまな問題が表に出てきています。


このように問題を共有していくことから始まると考えています。一歩一歩前に進んでいると考えていますので皆様引き続き頑張って進めていきましょう。





執筆・編集:一般社団法人日本アングラーズ協会

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